さて、四万十川の特別教室に行ってきた話をしよう。今回の報告も長いので、長文を読むのが苦手な人は写真だけ楽しんでほしい。
四万十川は自然教室の企画としては3年ぶりだ。
高知へ向かうのは高速バス。どっかのあほうが自動車偏重の政策をとったために、四国方面に向かう夜行列車とフェリーが全滅してしまい、乗りたくもない高速バスにて行くはめになった。バスは足が伸ばせないのでつらくて不愉快だが他に手段がない。
大阪を0750に出発。高速バスで高知県の須崎、鉄道に乗り継いで中村と移動。ここで先行していたリーダーと合流して買い出しを行う。中村からバスに乗り込んで一路、四万十川中流口屋内へ。口屋内到着は1730、実に10時間もの長旅だ。これだけの時間をかけてここまで来るのは何故か?答えは翌日出されるだろう。長旅をするだけの価値が四万十川にはあるのだ。
口屋内では公民館に宿泊することになる。公民館はバス停と四万十川をはさんだ対岸で、いつもなら沈下橋をわたってものの5分でたどりつける場所だ。しかし去年の増水で口屋内の沈下橋が崩落してしまったので、やや下流にある口屋内大橋を渡っていかねばならない。歩く距離は4倍ほどになりちょっと不便だ。
ちなみに公民館は一般には開放されていない。ここでも、自然教室の「継続性」が生きている。今回は3年ほど間が開いてしまったが、口屋内での企画も20年以上の歴史があるのだ。
17時をまわっているのでついて早々に夕食。買い出しがスーパーでしかできてなかったので、いまいち野菜不足なのが残念だ。高知まで来てもしょせんスーパー。野菜は質が悪く、おいしくない。
一夜開けて17日。空模様は上々、予報も問題なく晴だ。朝飯を済ませ、早速、川へ。とその前に口屋内でエビ漁をしている方のところへテナガエビのしかけ(四万十川では「ころばせ」とよばれている)をお借りしに行く。このエビのころばせを借りられるのも地元の方とのつきあがあってこそできることだ。
ころばせのしかけを借り、エサまでもらって、早速川にしかけてみる。エビは夜行性なので夕方しかけて翌朝回収するのが良いらしいが、この日は朝しかけて夕方に回収することにした。
しかけが終わったら、川遊びだ。この日は四万十川本流と支流の黒尊川との合流点で遊ぶことにした。普段なら、四万十川にかかる沈下橋で飛び込みをするのだが、肝心の沈下橋が老朽化で崩落しており、通行禁止になっていたため、今年の「四万十特別教室」は飛び込みなしだ。ちなみに来年には修理は完了しているそうなので、次回は飛び込みもできるぞ。
四万十川本流の一番流れている部分はさすがに危険なので、流れからそれた深みで遊ぶ。それにしてもなんだか人が多い。どうもどこかで評判が広まっているらしく、四万十本流にも黒尊川にも人がいっぱいだ。以前は自然教室ぐらいしか来ておらず、どこもプライベートビーチ状態だったのだが、そこに人がいっぱいいるのはやはり煩わしい。たくさんの人がおとずれるのは地元にとってはいい事かもしれないし、我々もわざわざここまで来ている集団のひとつなのであまり大きな事は言えないのだが…。
夕方まで遊んでから、エビのしかけを回収する。やっぱり昼間はいまいちみたいだ。しかけの2つに1つしか入っていない。そのかわり甲の幅が7cmをこえるようなモクズガニが入っていた。ころばせにはもう一度エサを入れて沈めておく。
この日の夕食はカレー。カレー粉はスパイスを組み合わせて作る。売っているカレー粉は辛すぎるので、自分で組み合わせられると辛みの調節ができてちょうどいいのだ。個々のスパイスは他の料理にも転用できるので一石二、ないしは三鳥だ。カレールー?そんなものは知りません。
この日の夜は散歩に出かけることにした。昼間は日射しが強かったが、さすがに夜になると涼しい。まだ畿内では聞かれない直翅目の鳴き声も聞こえる。街灯は全くないので道は暗く、目をこらせばほのかにマドボタルの幼虫が光るのが見える。いつもなら橋を2つまわるコースなのだが、沈下橋が通行不能なので口屋内大橋まで行って帰る。橋の電灯には川からの虫が大量に集まっており、まるで竜巻のような光景で壮観だ。虫を食べにヒキガエルも来ていた。散歩のしめくくりは黒尊川の河原で寝転んで星を見る。満天の星空は吸い込まれるようだった。
8月18日、四万十到着2日目は黒尊川の川下りだ。弁当を手に、公民館から30分ぐらい歩いて黒尊川の上流にむかう。この日も快晴、川遊び日和だ。四万十川本流との合流点は人が多かったが、このあたりまで来ると全く人気はない。川がカーブを描き、深い瀬を形づくっている場所でさっそく川に入る。ここから黒尊川の流れをつたって川を下っていく。道からもはなれ、完全な秘境だ。
それにしても黒尊川は水がきれいだ。それも尋常ならざるほど。これから入ろうかという川の深さが2mか20cmかわからないのだ。これは比喩でも誇張でもない。実際に透視度(どれぐらい見えるかという数値)が11mだという数字があるのだ。11mあれば複々線で普通列車と優等列車を同時に運行できるほどではないか…というような読者置いてきぼりのたとえはさておき、この清さはよそでは体験できないものだ。おそらく滋賀の生水も水は同じぐらいきれいなんだろうけど、ここ黒尊川は深さがちがう。曲がりくねった川は岩盤を削り、ところによっては5m以上もの深い瀬ができているのだ。立とうと思った浅瀬が実はぜんぜん足が届かない深みであったなんてことがざらにある。
ためしに黒尊川の清流に飛び込んでみよう。水面上から見る、青く輝く水底の推定の深さは2m。足はギリギリつかないが、ちょっと勢いをつけて潜れば着底し、底をければ水面に頭も出せる深さだろう。かるい気持ちでドボンと…ふっ、深い!!飛び込んだ勢いをもってしても足先から底までまだ2mはある!どこが2mなんだ!潜水しても底に手が届かない。水圧で耳が痛い。これは、ちょっと浅瀬に戻って体勢を…、ってここも微妙に深いぞ。立っても頭が水面に出ないのだ。ここも1m50cmぐらいだと思ったのに、2mぐらいの深さだ。さっきから目測がぜんぜん狂ってる。というか普通はかすんで見えない深さが見えすぎるのだ。4mなら普通は青か緑にくすんで見えないはずである(四万十川本流の透視度は3mだそうだ)。1m50cmの水底なら普通はおぼろげに見えるだけだ。おぼろげ?ぜんぜん全部丸見えなんですが?本当に透明な水はかくも距離間を狂わせる。「見えすぎて逆に危ない。」とは今回行った子どもの弁だが、まったくもってそのとおりだ。
そんな黒尊川の清流には当然ながら魚も多い。よく珊瑚礁に熱帯魚が群れている写真や映像があるが、黒尊川の魚の群れている度合いはあれとほぼ一緒なのではないだろうか。まあ、淡水魚なんで色合いがいささか地味だが、それでもその量には圧倒される。種類も豊富だ。ざっと見、30種類以上いるのではないだろうか。透きとおった水、はるかに見渡せる川の果てまで続く魚・魚・魚。潜って見ているだけで楽しくなってくる。目の前にあるのはまぎれもなくここにしかない光景だ。
遊べる深みを転々としながら黒尊川を下っていき、途中の川岸で弁当をひろげる。あいかわらず人気はなくどこも我々だけのプライベートビーチだ。川が再び曲がり、人家と道に近づいたところで黒尊川からあがり、この日の川遊びは終了。
と思ったがまだ川に行く用があった。昨日からしかけっぱなしの「ころばせ」を確認しに行かねばならないのだ。さすがに一昼夜つけていただけあってテナガエビがしかけあたり3匹も入っていた。ついでにモクズガニと見なれぬヒゲが4本ある魚もとれた。ちなみにこの魚は後から確認したところ、「環境省レッドデータブック絶滅危惧Ⅱ類」の「アカザ」であった。
たくさんとれたテナガエビはもちろん夕食に並ぶことになる。テナガエビは通例、カラアゲか天プラにするのだが、これは実は受けがあんまりよろしくない。というのも揚げたテナガエビは麦で作った炭酸飲料とあわせて食すとこの上ないが、おかずとして食べるのはちょっとくどい感じなのだ。というわけで今回はテナガエビを使った新レシピを開発してみた。「テナガエビ(とモクズガニ)のパエリヤ」と「テナガエビ入りパジョン」だ。ちなみにスペイン料理と韓国料理である。もともと海産物が入っている料理なので違和感なく、とてもおいしくできた(パエリヤは若干、焦がしたが)。どちらもかんたんにできるのでテナガエビが手に入ったらぜひ作っていただきたい。
夕食が終わったあとは近くにある小学校へ。正しくは「元」小学校なのだが、ここで地元の方から口屋内と四万十川についてのお話を聞かせてもらえることになっているのだ。この話がまたたいそう興味深いはなしだったのだが、ここまで長々と文章が続いているので今回も前後編である。というわけで後編へ続く。